- 契約と同時に請求書を出しました。なぜ入金がないのですか
- 多くの日本企業では、支払日を請求書の発行日から数えていないからです。基準になるのは毎月の締め日で、その日までに届いた分がまとめて処理され、あとに来る支払日に一括で振り込まれます。締め日の翌日に届いた請求書は、1日ではなく1か月ずれます。手違いでも、金額への異議でもありません。こちらが思い描いている日程とは別に、先方の買掛管理には独自の日程があり、実際に支払いを動かしているのはそちらだけなのです。
- 請求書が経理から差し戻されました。何が問題なのですか
- たいていは金額ではなく、記載事項の不足や誤りが原因です。2023年10月1日から、日本の企業は原則として適格請求書(インボイス)がなければ、その仕入れや経費について仕入税額控除を受けられません。必要な記載事項は国税庁が公表しています。交付先の名称、売手の名称と登録番号、取引年月日、取引内容、10%・8%それぞれの対価の総額と適用税率、そして税率ごとの消費税額です。海外のテンプレートはこうした項目をどれも求めない国の様式で作られているため、こちらの経理が聞いたこともない項目で引っかかります。
TL;DR
契約は締結され、サービスは稼働し、請求システムが自動生成した請求書は、日本の経理部で止まったまま動いていません。起きていることは2つあります。1つは時期です。日本企業は請求書の日付ではなく「締め日と支払日」で払うので、送る週を間違えると1サイクルまるごとずれ、督促では取り戻せません。もう1つは形式です。2023年10月1日以降、買手が仕入税額控除を受けるには原則として適格請求書が必要で、登録番号や税率ごとの消費税額が欠けた請求書は、先方にとって体裁の問題ではなくコストの問題になります。どちらも本社からは見えません。多くの市場で請求書は「支払いの依頼」ですが、ここではまず確認を通過してはじめて依頼になる文書だからです。この記事では、その確認が何を見ているのか、資金繰りに何が起きるのか、そして本社の請求システムが日本の様式を出せないときに何ができるのかを整理します。
Key Takeaways
- 基準は請求書の日付ではない。毎月の締め日から決められた支払日へ、という流れで動く。締め日を1日過ぎると、入金はおよそ1か月ずれる。
- 登録番号の欠落は、事務の不備ではなく買手の損得の問題。適格請求書がなければ原則として仕入税額控除ができない(2031年9月末までの経過措置あり)。
- 必要な記載事項は公表されていて、しかも短い。国税庁が挙げているのは6項目。海外のテンプレートはたいてい2項目落ちる。登録番号と、税率ごとの区分だ。
- 社名は先方の登録と完全に一致させる。法人格が社名の前か後ろかも含めて。システムは文字列で照合するので、ずれた瞬間に人の手が入る。
- 契約した人と、支払う人は別。経理は別部署で、住所も受付窓口も違い、こちらとの商談の経緯には関心がない。
4月に決まった案件の入金が、6月になる
日本の案件が決まりました。契約書は取り交わし済み、サービスは稼働、請求システムはいつもどおり開始日に請求書を発行し、支払期限は30日後と印字されています。60日後、本社の財務が延滞債権として拾い上げ、日本の担当者に督促を頼みます。
担当者が電話をすると、丁寧で、少し不思議そうな返事が返ってきます。問題は起きていません。請求書は受領済みです。4月の締めに入っているので、5月末にお支払いします。
実は、多くの日本企業は請求書を1枚ずつ、その期限どおりに払っているわけではありません。月ごとのサイクルで処理しています。毎月の締め日までに届いたものをまとめ、内容を確認し、社内の承認を通し、そのあとの支払日に一括で振り込む。先方が支払条件と言うときに指しているのはこの2つの日付で、どちらもこちらと交渉して決めたものではなく、先方の買掛管理の決まりです。
ここから3つのことが起こります。そしてどれも本社からは見えません。
「30日以内」は飾りになる。書類には載っていて、誰も否定はしません。ただ、それで何かが動くわけではありません。入金日を決めているのは、先方のシステムにある2つの日付です。結果を変えたいなら、文言を直すより、請求書が届く日を合わせるほうが効きます。
1日の差が1か月になる。締め日の直後に届いた請求書は、次のサイクルに回ります。関係者全員が「予定どおり」と思っているのに入金だけ1か月遅れて見えるのは、たいていこれが原因です。2つの日付さえ知っていれば完全に避けられますが、先方にとっては当たり前すぎて、誰も教えてくれません。
最初の日本の売上予測は、必ず同じ方向に外れる。売上は本物で、入金だけがモデルより後ろにずれます。このずれは回収の失敗ではなく、仕組みから来るものです。予定どおり払ってくれている取引先を「延滞」と本社に報告してしまうと、遅れそのものより厄介な事態になります。
最初の請求書を出す前に聞く2つのこと:仕入先からの請求書の締め日はいつか、そのあとの支払日はいつか。聞く相手は経理であって、担当者ではありません。担当者はたいてい推測で答え、その推測は自分が経費精算をするときの日付になります。
ここまでの状況は、日本市場参入の支援で繰り返し見てきたパターンを合成したものです。特定の顧客のことではなく、入金時期の話は調査データではなく現場での観察です。このあとに出てくる税制の記述は一次情報にあたり、リンクを付けています。
そして請求書が戻ってくる
2つ目の問題は、これよりもう一段厳しくなります。先方自身のお金に関わるからです。
適格請求書等保存方式、いわゆるインボイス制度は2023年(令和5年)10月1日に始まりました。この制度のもとでは、こちらから購入した企業がその仕入れについて仕入税額控除――支払った消費税を、預かった消費税から差し引く仕組み――を受けるには、原則として適格請求書の保存が必要です。国税庁もはっきり書いています。インボイスがない仕入れや経費については、原則として仕入税額控除ができません。2031年(令和13年)9月末までは、インボイスの保存がなくても仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置が設けられているため、いまのところ影響は緩和されていますが、なくなってはいません。
経理担当者の立場で考えてみます。要件を満たさない請求書は、見た目が悪いだけの書類ではありません。申告の際に自社の負担になりうる書類で、受け取った本人が社内で説明する羽目になります。だから黙って処理されずに差し戻され、修正の手間は小さいのに依頼の口調が重く感じられるのです。
「本社がテンプレートを変えられない」と答えても何も解決しないのは、同じ理由からです。こちらの事情の説明にはなっても、先方の負担をどうするかという問いへの答えにはなりません。
適格請求書に何が書かれていなければならないか
要件は公表されていて、しかも短いものです。国税庁は、インボイスの記載事項として次を挙げています。
- インボイスの交付先である相手方の氏名または名称。
- 売手――つまりこちら――の氏名または名称、および登録番号。
- 取引年月日。
- 取引内容(軽減税率の対象品目である場合はその旨)。
- 10%・8%それぞれの対象となる対価の総額、および適用税率。
- 10%・8%それぞれの消費税額等。
補足が2つあり、どちらも作業を減らしてくれます。まず、書類の名称は問わないと国税庁はしています。所定の事項が記載されていれば、納品書でも領収書でもインボイスになりますし、複数の書類を合わせて満たす形も認められています。もう1つ、小売業・飲食店業・タクシー業など不特定多数に販売する業種では、記載事項の一部を省略した簡易インボイスを交付できます。日本で受け取る領収書に宛名がないことがあるのは、不備ではなくこのためです。
登録番号について
登録番号は、適格請求書発行事業者の登録を受けた事業者に対して、登録後に税務署から通知される番号です。実務上は「T」+13桁の数字として現れます。国税庁の公表サイトも、登録事業者を検索する際には「T」を除く13桁の半角数字を入力するように案内しています。
この公表サイトの存在は、思っている以上に効いてきます。先方の経理は、こちらが印字した番号をここで確認できますし、実際に確認することもあります。検索しても出てこない番号や、契約書とは別の事業者が出てくる番号は、番号が無い場合よりもこじれた話になります。
自社が登録を受けられるのか、受けるべきなのかは、税理士にきちんと相談すべき論点です。どの法人が契約しているのか、日本の消費税の課税事業者に当たるのか、その役務提供がどう扱われるのか――この記事からは分からない事実で答えが決まります。確かなのは、番号が無いと買手側に何が起きるかで、そのしわ寄せはこちらの売掛金に出てきます。
この記事は制度の一般的な整理であり、税務・会計の個別の助言ではありません。登録の要否、個々の取引の取扱い、国境をまたぐ体制に関わる判断は、行動に移す前に日本の税理士または所轄の税務署にご確認ください。
海外テンプレートが落ちるのは「税率ごとの区分」
登録番号はよく知られているので、たいていは直されます。見落とされがちなのは5番目と6番目、税率ごとに区分した対価と消費税額です。B2B SaaSの多くは標準税率の取引しかないので、本来は簡単なはずです。それでも、税率を示さず「Tax」の1行だけを印字するテンプレートでは、求められる表示になりません。書類の上では小さな修正でも、グローバルの請求基盤で直そうとすると、とても小さな修正では済まないことがよくあります。
止まる原因は、たいてい細かいところにある
税の項目以外にも、一見なんでもない要素で、請求書が自動で流れるか人の手に回るかが分かれます。どれも法律上の要件ではありません。ただ、どれも相手側に手間を生み、書類が後回しにされるのはたいていその手間のせいです。
社名は先方の登記と一字一句合わせる。日本の法人名は法人格が名称の一部で、前に付く場合も後ろに付く場合もあります。この2つは別の文字列で、間違えた側を使っていたり、先方が日本語で登録している名称をアルファベットで書いていたりすると、文字列で照合するシステムは一致せず、人が介入することになります。社名はメールの署名欄からではなく、契約書か登記から取ってください。
宛名は会社であって、担当者個人ではない。個人宛、あるいは先方に存在しない部署宛の請求書は、支払いの前に質問を呼びます。
請求書の送り先は、買った人ではなく経理。「そもそも見られていない」という事態のいちばん多い原因がこれです。契約した人は事業部門にいて、支払いを回しているのは別の部署、しばしば住所も別で、専用の受付アドレスや取引先向けのポータルを持っていることも珍しくありません。どこへ、どの形式で送ればよいのかを一度だけ確認し、以後は毎回そこへ送ります。
押印は、求められることはあっても要件ではない。日本の商慣行では書類に社印を押すのが伝統で、請求書にも求めてくる相手はいます。税制上の記載事項には含まれていません。提出の段になって気づくより、先方の社内手続きとして必要かどうかを先に聞いておくほうが早く、必要だという答えなら、それは法律の話ではなく手続きの話として扱えば済みます。
通貨と振込先が、手数料の負担者を決める。外貨建てで海外口座へ振り込むこともできますが、先方にとってはちょっとした社内作業が一つ増えることになります。振込手数料を差し引くかどうかは、あとで着金額の差として突き合わせるより、先に書面で決めておいたほうがよいでしょう。
本社の請求システムが日本の様式を出せないとき
外資系ベンダーの現場では、たいていこうなります。グローバルの基盤は世界共通の様式を1つしか出せず、変更は別の大陸のチームが持つロードマップ上の項目で、その間も顧客は待っている。現実的な折衷案としてよく出てくるのは次の3つで、最初に試す価値があるのは1つ目です。
- 補足の書類を添える。記載事項は複数の書類を合わせて満たす形でもよいとされているため、登録番号・取引の明細・税率ごとの消費税額を記載した日本語の書面を、システムが発行した請求書に添えるという形が取れます。前提にする前に、その2枚の組み合わせで処理できるかを先方の経理に確認し、2つの書類の数字は必ず一致させてください。
- 先方のシステムに作ってもらう。買手が支払通知書などを作成し、売手が内容を確認する運用をしている企業もあります。それが使えるかどうかは先方の経理とこちらの税理士に確認すべき事柄で、こちらで前提にしてよいものではありません。ただ、実在する運用ではあるので、要件を満たさない請求書を受け入れてほしいと頼むよりは、はるかに筋のよい質問になります。
- 国内の法人やパートナー経由で請求する。販売代理店や日本法人を通して売っているなら、顧客が受け取る請求書は先方のもので、この問題はこちら側から消えます。直販よりもパートナー経由の参入が機能しやすい理由のうち、あまり語られない1つがこれです。直販の顧客が50社になり、請求の問題がその数だけ増えてから考えるより、先に天秤にかけておく価値があります。
申告に使えない書類をそのまま受け取ってほしい、と顧客に頼むのはうまくいきません。大事な取引先なら一度は受けてくれるかもしれませんが、更新のときに必ず蒸し返されます。そのころには書式の問題ではなく、この会社の仕事ぶりを示す材料として扱われています。
次の請求書までに直すこと
やることは短いリストで、どれも本社の許可を待たずに始められます。
- 日本の顧客すべてに、2つの日付を確認する。毎月の締め日と、そのあとの支払日。更新日の隣にCRMへ記録し、予測はそこから組み立てる。
- すでに日本へ出した請求書を1枚選び、6項目と照らして正直に点検する。落ちているのはたいてい登録番号か税率、あるいはその両方。
- 契約書から正式な社名を確認し、請求書の送り先と形式(住所・受付アドレス・ポータル、PDFで可か)も確認する。
- 登録の要否は社内で判断せず、日本の税理士に確認する。このリストの中で、思い込みでの判断がいちばん高くつく項目。
- 四半期が閉じる前に、本社の財務へ「日本の入金時期のずれは構造的なもの」と伝えておく。未達になってから言い訳するより、前もって話しておくほうがずっと楽だ。
購買手続きと稟議の紙の流れや、合意のあとに届くセキュリティチェックシートと、根っこは同じです。日本では、署名で販売が終わるわけではありません。署名は案件を別の部署へ引き渡す手続きです。その部署には独自のルールと独自の暦があり、会ったこともないベンダーのためにそのどちらかを曲げる理由はありません。入金時期の話は会計年度のずれで案件が3月に動く話とも近いので、あわせて読んでいただくと分かりやすいはずです。
Japan Readiness Check では、署名のあとに登場する部署と同じ読み方で、日本語で出している資料を追っていきます。予定した日に入金されるかどうかを決めている書類も、その対象です。
よくあるご質問
日本の顧客が「30日以内」に合意したのに、入金が60日ほどかかります。契約違反ですか
先方の理解では、まずそうはなっていません。多くの日本企業の支払いは月次のサイクルで動きます。締め日までに受け取った請求書をまとめ、内容を確認し、社内承認を通して、そのあとの支払日に一括で振り込む。この2つの日付は先方の買掛管理の仕様で、こちらのテンプレートに印字された「30日以内」がそれを上書きすることはありません。締め日の直後に届いた請求書は次のサイクルに落ちるので、遅れがちょうど1か月に見えることが多いのはそのためです。先方の経理に2つの日付を確認し、それに合わせて請求のタイミングを決めてください。結果が変わるのはそちらで、督促では変わりません。
登録番号とは何ですか。なぜ請求書に必要なのですか
2023年10月1日に始まった適格請求書等保存方式(インボイス制度)のもとで、適格請求書発行事業者の登録を受けた事業者に与えられる番号です。登録後に税務署から通知され、実務上は「T」+13桁の数字として現れます。国税庁の公表サイトも、検索の際は「T」を除く13桁を入力するよう案内しています。顧客にとって重要なのは、こちらからの仕入れについて仕入税額控除を受けるには原則として適格請求書が必要だからで、番号のない請求書は申告に十分に使えない書類になります。2031年9月末までは、保存がなくても仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置があり、影響は緩和されていますが消えてはいません。自社が登録を受けられるか・受けるべきかは、日本の税理士にご確認ください。
適格請求書には、具体的に何を書く必要がありますか
国税庁は次の事項を挙げています。交付先である相手方の氏名または名称、売手の氏名または名称および登録番号、取引年月日、取引内容(軽減税率の対象品目である場合はその旨)、10%・8%それぞれの対象となる対価の総額および適用税率、そして10%・8%それぞれの消費税額等です。知っておくと楽になる点が2つあります。書類の名称は問われません。所定の事項が記載されていれば納品書でも領収書でもよく、複数の書類を合わせて満たす形も認められます。また、小売業・飲食店業・タクシー業などでは記載事項の一部を省略した簡易インボイスを交付できます。日本の領収書に宛名がないことがあるのは、不備ではなくこのためです。
本社の請求システムがその様式を出せません。どうすればよいですか
まずは、システムが発行した請求書に、登録番号・取引の明細・税率ごとの消費税額を記載した日本語の補足書類を添える形から始めてください。数字は請求書と完全に一致させます。記載事項は複数の書類を合わせて満たす形でもよいとされていますが、前提にはせず、その組み合わせで処理できるかを先方の経理に確認してください。そのほか、買手側のシステムが書類を作成し売手が確認する運用をしている企業もあるので、聞いてみる価値があります。国内のパートナーや日本法人経由で売れば、この問題はこちら側から消えます。うまくいかないのは、申告に使えない書類を受け入れてほしいと頼むことです。一度は通るかもしれませんが、更新のときに必ず持ち出されます。
この記事は税務の助言ですか。事実はどこから取っていますか
税務の助言ではありません。日本市場参入を進める方に向けて、制度と支払サイクルの一般的な仕組みを整理したものです。登録の要否、個々の取引の取扱い、国境をまたぐ体制に関する判断は、実行の前に日本の税理士または所轄の税務署にご確認ください。税制に関する記述は、国税庁のインボイス制度のページと、登録番号の公表サイトから取っており、いずれも本文中にリンクしています。締め日・支払日・請求書の送り先についての記述は、調査データではなく、日本市場参入の支援で見てきた現場での観察です。冒頭の場面は特定の顧客ではなく、パターンの合成です。